私たちの生活と“睡眠”との関わりを探っていくインタビューコーナー。第1回に引き続き、サッカーチームのフィジカルコーチとして活躍中の大塚慶輔さんに「アスリートと睡眠」をテーマにお話を伺います。後編の今回は、「アスリートに学ぶコンディション調整」についてお届けします。私達の日常生活での健康管理について、プロ指導を行なっている大塚さんならではの視点で語っていただきました。
【大塚慶輔(おおつかけいすけ)氏 プロフィール】
1977年6月2日北海道生まれ。数々のプロサッカーチームのフィジカルコーチを経験し、現在は大宮アルディージャ所属。2017年に株式会社ライフパフォーマンスを設立。“トップアスリートのコンディショニングをすべての人に”をコンセプトに、フィジカルコーチとしてのノウハウを生かし、アスリートだけでなくビジネスパーソンにもトレーニングやライフスタイルの指導・サポートを行なっている。
<指導歴>
船橋西高コーチ(96~00) – 筑波大附属駒場中高コーチ(00~03) – アルビレックス新潟ユースフィジカルコーチ(05~07) – ジェフユナイテッド千葉フィジカルコーチ(08~09) – ジェフユナイテッド千葉U-18アカデミーコンディショニングコーチ(10) – アルビレックス新潟フィジカルコーチ(11~12) – モンテディオ山形フィジカルコーチ(13) – FC町田ゼルビアフィジカルコーチ(14~17) – 大宮アルディージャフィジカルコーチ(18〜)
具体的な目標設定がかなめ!
前回に引き続きよろしくお願いします。さて、大塚さんはご自身のジムにて一般の方にも指導を行なっているとのことですが、ビジネスマンだとアスリートと違って目標を明確に設定することが難しいのではないでしょうか。
大塚さん
そうですね。でもそれは何でもいいと思っていて、例えば「大事な会議でうまくプレゼンして認められたい」「挙式までに身体を絞って綺麗にドレスを着たい」とか、パフォーマンスを何と捉えるかです。日頃の生活でのパフォーマンスの質を上げることを目標に置いてもらうことはアスリートと変わりません。
なるほど。これからの時期だと「痩せたい」と思う人が殺到しそうです。
大塚さん
「痩せたい」という目標はあまり良くないですね。目標は具体的だとより良いです。「痩せてビキニを着て沖縄の海に行って遊びたい」など、その結果“どうなって”“どういうことをしたいのか”というところまで描けている人の方が、より具体的な計画が立てられるうえ、モチベーションが違いますし強いです。
今日からできる健康のための睡眠のススメ
実際にアスリートの方へ指導されていることで、早速真似できる「睡眠のススメ」はありますか。
大塚さん
毎日の起床もしくは就寝時間を同じにすることです。どちらかというと起床時間がいいですね。
全体の睡眠時間ではなくですか?
大塚さん
はい、もちろん睡眠時間も大事ですが、まずは起床する時間を揃えてみてください。7時なら7時、毎日7時に起きます。起きる時間を日々揃えるだけで、生活リズムが整います。食事をとったり、活動したり、そのために身体がしっかり準備してルーティーンに対応できるようになります。これが毎日違う時間となると、身体が生活を覚えることなく、食事を溜め込んだり、活動できるエネルギーを最大値まで持ってこれなくなってしまいます。
起床時間を揃えることで、実際に日中の生活に変化はでるのでしょうか?
大塚さん
でます。起床時間が毎回バラバラだと起床後の生活リズムが定まらず、不具合が生まれます。例えば「痩せたい」と思っていても、起床時間のバラつきから毎回の食事のタイミングが図れません。そうすると、いつ来るかわからない食事のために身体は食べ物をどんどん溜め込んでしまいます。これが毎日の起床時間を揃えると、食事の時間もある程度揃ってくるので身体がきちんと準備をして消化してくれます。
起床時間を揃えるだけでも1日の生活リズムが整えられるんですね。
大塚さん
実際に睡眠は一番取り掛かりやすい健康への入り口です。よく聞くことかもしれませんが、起床後に日光を浴びたり、日中に仮眠をとったり、就寝2時間前には入浴をして直前にテレビやスマートフォンを見るのを控えたり、これは誰にでも共通して言える睡眠の質の向上のためにできることですね。これだけで日中の眠気や気だるさなどが解消されて、日中のコンディションは良くなります。
小さな達成と満足を繰り返しながら目標達成へ
何事も簡単なことから実践ですね!
大塚さん
まさにそうです!人が物事に挑戦する時には3つの領域があります。現状の変化のない心地良い環境“コンフォートゾーン”、ちょっと背伸びしてみる“ストレッチゾーン”、極端な変化を与える“パニックゾーン” 。いきなり大きな変化に挑むと人はパニックに陥りますよね。自分のストレッチゾーンを見つけて、小さな達成と満足を繰り返しながら目標達成へ向かっていくことが大切です。
中間目標も大切ですね。
大塚さん
取り掛かりやすい順序として、まずは“変えずに移す”。例えば、睡眠時間を変えずに起床時間を揃えるように時間を移してみてください。つぎに“置き換える”。食事や行動ですね。3食のうち1食からでいいので栄養バランスのとれた食事に変えてみたり、就寝前の時間にスマートフォンを見ていたのをストレッチや読書に変えてみたり。そして“鍛える”、トレーニングです。最終的にやはり運動は大切です。
「良い睡眠」とは?
この順序だと無理なく実行に移せそうですね!
それでは最後にお聴きします。大塚さんの思う「良い睡眠」とは何でしょう。
大塚さん
“五感全てが心地良い状態で睡眠をとる”ことがいい睡眠をつくると思います。睡眠を促すようハーブティーなどを飲んで、間接照明下で心地良い音楽を聞いてアロマなどでリラックスできて、自分に合った寝具で寝られたら最高ですよね。
確かに理想ですね!大塚さんご自身は、寝具に対するこだわりや思い入れはありますか?
大塚さん
生まれが北海道だったのもあって、昔はずっしり重い綿の布団が当たり前でした。幼少期の思い出や習慣は結構影響を受けるもので、北海道から出てもしばらくは綿布団が落ち着きました。今はなかなか、昔ながらの布団で寝るという機会が少ないですが、せっかくの日本独自の睡眠文化だと思うので、海外の方にも是非体験してもらって持ち帰ってもらえるといいなと思います。
ありがとうございます!
2回にわたってお届けした「アスリートと睡眠」、いかがでしたでしょうか。アスリートの徹底された管理指導には驚きましたが、わたしたちも日常のパフォーマンス向上や健康についての取り組みはアスリートと変わらないのですね。何より睡眠が一番取り掛かりやすいとのことだったので、皆さんも早速明日から、毎日定時に起きる練習をしてみてはいかがでしょうか!